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管理組合が防災訓練をしても住民が来ない本当の理由 | 防災共助(3)

住民が来ないのは「無関心」だからではなく、「自分ごとになっていない」からです。 そしてその根本には、防災訓練の設計そのものに構造的な問題があります。本記事では、この問題の本質と、参加率ではなく「防災力」を高めるための訓練再設計の考え方を解説

参加率の低さは「無関心」ではなく「無関係」が原因である

「毎年防災訓練を実施しているのに、参加率が上がらない」

マンション管理組合の防災委員であれば、一度はこの悩みを抱えたことがあるはずです。
告知文を何枚貼っても、一斉メールを送っても、集まるのはいつも同じ顔ぶれ。
全体の10〜20%程度の参加率で頭打ちになる、という管理組合は珍しくありません。

多くの管理組合がここで出す結論は「住民が無関心だから仕方ない」というものです。
しかしそれは、本当の理由ではありません。
住民が来ないのは「無関心」だからではなく、「自分ごとになっていない」からです。
そしてその根本には、防災訓練の設計そのものに構造的な問題があります。

本記事では、この問題の本質と、参加率ではなく「防災力」を高めるための訓練再設計の考え方を解説します。

目次

  1. 防災訓練の参加率という「数字の罠」
  2. 住民が来ない本当の理由——「無関心」説を解体する
  3. 現行の防災訓練が抱える3つの構造的問題
  4. 「訓練に来ない住民」を責める前に問うべきこと
  5. 訓練の目的を「技術習得」から「関係構築」に変える
  6. 参加率より「防災力」を高める訓練の再設計
  7. まとめ:防災訓練は、共助の土台をつくる場である

1. 防災訓練の参加率という「数字の罠」

「参加率30%」は成功か失敗か

あるマンション管理組合が年1回の防災訓練を実施し、全120世帯のうち36世帯・参加者42名が集まったとします。参加率30%。管理組合の役員は「今年は頑張った」と評価するでしょうか。それとも「また来なかった」と落胆するでしょうか。 どちらの反応も、同じ罠に陥っています。 参加率という指標は、防災力を測っていません。 訓練に来た42名が消火器の使い方を習得したとしても、来なかった78世帯の住民が発災時に何もできないなら、マンション全体の防災力は大きく損なわれたままです。特に、要配慮者世帯・高層階住民・単身高齢者など「助けられる側」になる可能性が高い住民ほど、訓練に来ていない傾向があります。

「毎年同じ顔ぶれ」問題の本質

多くのマンションで見られる「訓練参加者がいつも同じ」という現象は、数値以上に深刻な問題を示しています。 参加し続けるのは防災意識が高い住民です。来ない住民は、何年経っても来ません。この固定化が意味するのは、「防災訓練が既に防災意識のある層にしか届いていない」という閉じたループです。 本来、防災訓練が届けるべき相手は、防災意識がまだ低い住民です。参加率が固定化している時点で、訓練の設計が目的を達成できていないことを示しています。

2. 住民が来ない本当の理由——「無関心」説を解体する

「どうして来ないんでしょうか」。防災委員のこの問いに対して、来なかった住民に直接聞いたことがあるでしょうか。アンケートや個別ヒアリングの結果を見ると、「無関心」という答えはむしろ少数です。 実際に挙げられる理由を整理すると、以下のパターンに分類できます。

パターン①「参加するメリットがわからない」

「消火器の使い方なら、もう知っています」
「去年も同じ内容だったので、今年は行かなくていいかと思いました」
毎年同じプログラムを繰り返す訓練は、一度参加した住民に「もう十分」という感覚を与えます。スキルの習得を目的とした訓練は、習得後に参加動機を失わせます。

パターン②「参加のハードルが高い」

「土曜の午前中は子どもの習い事があって」
「雨だったので、次の機会にしようと思いました」
「一人で行くのが少し気が引けて」
時間・天候・心理的障壁——これらは「無関心」ではなく、「参加しやすい設計になっていない」という設計上の問題です。

パターン③「自分には関係ない気がする」

「このマンションに越してきたばかりで、まだよくわからなくて」
「若いので、自分は大丈夫かなと思って」
「訓練の内容が、自分の生活と結びついている感じがしなくて」
これが最も根本的な理由です。「自分ごとになっていない」——これは無関心とは異なります。「自分とこの訓練の間に、接点が見えていない」という状態です。

パターン④「来ている人たちを知らない」

「いつも同じ人たちがいるみたいで、輪に入りにくい」
「管理組合の役員の方たちとは面識がなくて」
既存参加者との関係性がないことが、参加の心理的障壁になっています。「知らない集団のイベントに一人で参加する」というハードルは、思いのほか高いものです。

3. 現行の防災訓練が抱える3つの構造的問題

住民が来ない理由を整理すると、現行の防災訓練には3つの構造的問題があることが見えてきます。

構造的問題①:目的が「技術習得」に固定されている

現行の多くのマンション防災訓練のプログラムはこうなっています。
典型的な防災訓練の構成(現状)
├── 消火器の使い方(水消火器を使った実技)
├── AEDの使い方(デモンストレーション)
├── 避難経路の確認(館内を歩く)
└── 管理会社・消防署からの講話
    所要時間:60〜90分
    その後:解散
この構成の問題は、「技術を教えること」が目的になっており、「人をつなぐこと」が目的に入っていない点です。 消火器の使い方は大切な知識です。しかし発災時に消火器を使う場面より、隣の住民に「大丈夫ですか」と声をかける場面の方が、圧倒的に多く・重要です。後者のための準備——顔と名前を覚えること——が、訓練プログラムに含まれていません。

構造的問題②:「来た人向け」の設計になっている

訓練に来た住民の満足度を高めることに注力するあまり、来なかった住民への働きかけが設計されていないマンションがほとんどです。 来なかった住民に対してどんなフォローがありますか、と聞くと「次回のお知らせを出します」という答えが返ってくることが多い。しかしこれは、来なかった住民が「来ない理由」を解決していません。

構造的問題③:訓練が「点」であり「線」になっていない

年1回の訓練は、それ単体では「防災の点」です。点は点のまま終わります。 防災力として機能するのは、住民間の関係性が日常的に維持される「線」のつながりです。年1回の訓練でいくら良い体験をしても、翌日から11ヶ月間まったく接点がなければ、そのつながりは消えます。
現状:防災訓練の効果の減衰
 1月(訓練)→ 2月(記憶あり)→ 5月(記憶薄れ)→ 12月(ほぼリセット)→ 翌1月(訓練)

理想:つながりが持続するサイクル
 訓練 → 日常的な接点(掲示・行事・ツール)→ 訓練 → 日常的な接点 → …

4.「訓練に来ない住民」を責める前に問うべきこと

参加率が低いとき、多くの管理組合は「住民の意識が低い」という結論に向かいます。しかし、本当に問うべき問いは別にあります。

問い①「私たちの訓練は、住民の生活と接続されているか」

防災訓練に参加することが、住民の日常生活にどんな価値をもたらすか、明確に答えられますか。 「いざというとき役に立つ」は答えになっていません。「いざというとき」の抽象性が、「自分ごとになっていない」状態を生んでいます。
「この訓練に参加することで、同じフロアに住む○○さんと顔見知りになれる」
「訓練後の食事会で、引っ越してきたばかりの方と知り合えた」
こうした具体的・日常的な価値が見えたとき、参加の動機は「防災意識の高さ」に依存しなくなります。

問い②「来ない住民が来ない理由を、私たちは把握しているか」

参加しなかった住民に対して、「なぜ来なかったか」を把握する仕組みがあるマンションは稀です。改善するためには、来なかった理由を知らなければなりません。 簡単なアンケート、管理員からの声かけ、次回訓練前の個別ヒアリング——参加しなかった住民の声を集めることが、設計改善の出発点です。

問い③「要配慮者が来ていないことを、私たちは問題視しているか」

最も重要な問いです。 発災時に最も支援が必要な住民——高齢者・障害者・乳幼児世帯——が訓練に来ていない場合、それを「仕方ない」で済ませていませんか。 この層への訓練参加の働きかけは、一般的な告知とは別に設計する必要があります。「訓練に来てもらう」のではなく、「私たちが把握しに行く」という発想の転換が求められます。

5. 訓練の目的を「技術習得」から「関係構築」に変える

では、どう変えればいいのか。最も本質的な転換は、防災訓練の「目的の再定義」です。

旧来の目的と新しい目的

  旧来の防災訓練 新しい防災訓練
主目的 防災技術の習得・確認 住民間の関係構築
副目的 防災意識の向上 防災技術の習得・確認
成果指標 参加率・習熟度 新たに顔見知りになった組み合わせ数
訓練後の状態 技術を習得した個人が増える 知り合いが増えたコミュニティが育つ
翌年への影響 リセット(また一から) 関係性が累積していく
この転換は、防災技術の軽視ではありません。関係性が育つからこそ、技術が実際に機能するという優先順位の明確化です。

「関係構築型訓練」の核心——なぜ関係性が防災力なのか

前述のとおり、阪神・淡路大震災の生存者の約8割は近隣住民に救助されています。その住民が素早く動けた理由は、消火器の使い方を知っていたからではなく、「この人が助けを必要としている」と知っていたからです。 つながりがあれば、技術がなくても声はかけられます。技術があっても、つながりがなければ声はかけられません。 防災訓練が育てるべきは、まず「声をかけられる関係性」です。

6. 参加率より「防災力」を高める訓練の再設計

具体的に、どう訓練を変えるか。「関係構築型防災訓練」への転換を実践するための設計方針を紹介します。

設計方針①:訓練後の「交流フェーズ」を公式プログラムに組み込む

訓練終了後の懇親・食事会を「おまけ」ではなく、訓練プログラムの正式な一部として位置づけます。
訓練プログラム(再設計例)
├── 第1部(30分):防災技術・知識の確認
│     消火器実技・安否確認手順・備蓄倉庫の場所
├── 第2部(20分):チーム訓練
│     フロアごとのグループで「発災シナリオ」を体験
│     ※チームは毎年ランダムに組み替える
└── 第3部(40分):交流・懇親
   簡単な食事・飲み物を用意
   「新たに知り合った人と名刺交換」を推奨
   新入居者・要配慮者世帯へのフォローをこの場で実施
第3部を加えることで、訓練の目的が「技術習得+関係構築」へと拡張されます。参加の動機として「懇親会があるから行く」という入口を設けることが、参加層を広げます。

設計方針②:フロア単位の「小訓練」を年複数回行う

全体訓練の参加ハードルが高い理由の一つは「知らない大勢の前に出る」という心理的障壁です。これを下げるために、フロア・棟単位の小規模訓練を年複数回設けることが有効です。
  • 5〜10世帯規模なら、顔と名前が一致しやすい
  • 所要時間を15〜20分に短縮できる
  • フロアキャプテンが主催することで管理組合の負担を分散できる
  • 要配慮者世帯への個別声かけをこの場で実施できる
小訓練を積み重ねることで、全体訓練は「既知の仲間と改めて確認する場」に変わります。

設計方針③「来ない住民」へのアウトリーチを設計する

訓練に来なかった住民を「来なかった人」で終わらせない仕組みを作ります。
  • 訓練後レポートの配布:参加できなかった住民に訓練の内容・写真・防災情報をまとめた1枚を配布。「参加した気分」と「次回参加の動機」を同時に提供する。
  • 訓練内容のデジタル共有:マンション内のコミュニケーションツールで訓練の様子・学んだことを投稿。来なかった住民との接点をつくる。
  • 要配慮者世帯への個別訪問:訓練後にフロアキャプテンが担当世帯を訪問し、安否確認の手順を個別に伝える。

設計方針④:訓練をきっかけに「日常のつながり」へ橋渡しする

訓練当日に知り合った住民が、その後も接点を持てる仕組みを整えます。 マンション内の掲示板・回覧板・デジタルツールなど、日常的なコミュニケーション手段が整備されていると、訓練で生まれた「顔見知り」関係が日常に持続します。 特に、防災と日常のコミュニケーションが一つのプラットフォームで統合されていると、訓練後も自然な形で接点が続きます。「防災のときだけつながる」から「日常的につながっているから防災でも機能する」へ——この転換が、訓練の効果を年間持続させる鍵です。

7. まとめ:防災訓練は、共助の土台をつくる場である

この記事で論じてきたことを整理します。

① 参加率の低さは「住民の無関心」ではなく「訓練設計の問題」である
来ない住民を責める前に、来ない理由を把握し、設計を変えることが先決です。
参加率という指標そのものも、防災力の代理指標として不完全におもえます。

② 住民が来ない本当の理由は「自分ごとになっていない」ことである
メリットが見えない・ハードルが高い・既存参加者を知らない
——これらは「無関心」ではなく「接続されていない」状態といえます。設計次第で変えられます。

③ 現行の訓練は「技術習得」に目的が固定され、「関係構築」が欠落している
消火器の使い方より、隣人の名前を覚えることの方が、発災時には命に近い。
この優先順位が、訓練設計に反映されていない。

④ 訓練の目的を「関係構築」に転換することが、防災力の本質的な向上につながる
訓練後の交流フェーズ・フロア単位の小訓練・来なかった住民へのアウトリーチ
——設計を変えれば、訓練は「点」から「線」になる。

⑤ 防災訓練は、共助の土台をつくる最大の機会である
年1回のこの機会を、技術確認で終わらせるか、人間関係の構築に使うか
——その選択が、次の災害時のマンション全体の生存率を変える。

防災訓練の参加率が低いことは、「住民の問題」ではありません。
それは、訓練が住民にとっての「理由」を持っていないサインです。
技術ではなく、つながりを育てる場として訓練を再設計したとき、参加率という数字より大切なものが生まれます。
顔と名前が一致する隣人の数が増えること。 それが、防災訓練の最も価値ある成果です。
mansion-bosai.net 編集部
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